中高生にも分かる数学

他のサイトでよくある「数式で一般化した美しい数学」より「例題から理解してもらう親しみやすい数学」を目指しています。

エルデスシュトラウスの予想を証明!②(解の形式)

前回に引き続き、今回もエルデスシュトラウスの予想の研究成果についてお話したいと思います。
今回はパート2となるので、まだパート1をご覧になっていない方はページ下のリンクからぜひ閲覧ください。
さて、パート1では恒等式を用いることで解を発見することができる、という話でした。
ここで前回の記事で紹介した恒等式を確認してみます。

n = 4k+3(kは負でない整数)のとき


\frac{4}{4k+3} = \frac{1}{k+1} + \frac{1}{2(4k+3)(k+1)} + \frac{1}{2(4k+3)(k+1)}

n = 8k+5(kは負でない整数)のとき


\frac{4}{8k+5} = \frac{1}{2(k+1)} + \frac{1}{(8k+5)(k+1)} + \frac{1}{2(8k+5)(k+1)}

n = 24k+17(kは負でない整数)のとき


\frac{4}{24k+17} = \frac{1}{6(k+1)} + \frac{1}{(24k+17)(k+1)} + \frac{1}{6(24k+17)(k+1)}

ここでちょっと気づく人もいるかと思います。 3つのパターンすべてにおいて共通すること、それは

「nが含まれた分数が右辺に必ず2つある」

ということです。みなさん気づけたでしょうか??気づけなかった人はもう一回確認してみてください。確かにそうなっています。

もしかすると、解の公式がない24k+1型の素数についてもこのようなルールは存在するのではないか・・・。 そう考えついた途端、ペンが止まりませんでした。

ここでx,y,zののとりうる値は全くの無秩序、ちりちりばらばらではないと考えた私は解(x,y,z)の形式について考えてみました。 それを以下に紹介したいと思います。

まず、解(x,y,z)が素数nを因数に含むのか否かによって4つのパターンに場合分けすることができます。

  1. (x,y,z)はすべてnを因数にもつ。
  2. (x,y,z)はすべてnと互いに素。
  3. (x,y,z)のうち一つだけがnを因数に持つ。
  4. (x,y,z)のうち二つだけがnを因数に持つ。

1.の場合を考えてみましょう。 このときx = nx', y = ny', z = nz'(x',y',z'はすべて自然数) と表すことができます。このときエルデスシュトラウスの予想が成立すると仮定すると、


\frac{4}{n} = \frac{1}{x} + \frac{1}{y} + \frac{1}{z} = \frac{1}{n}(\frac{1}{x'} + \frac{1}{y'} + \frac{1}{z'})


4 = \frac{1}{x'} + \frac{1}{y'} + \frac{1}{z'}

となる必要がありますが、この等式を満たす自然数x',y',z'は存在しません。なぜならこの式の左辺の最大値はx'=y'=z'=1のとき3となりますがどんなに頑張っても4までは届かないからです。 すなわちエルデスシュトラウスの解に1.のような場合は存在しないということになります。

続けて2.の場合を考えてみます。 このとき(n,x)=(n,y)=(n,z)=1となります。

※記号(p,q)はpとqの最大公約数を表しています。例えば(30,42)=6です。p,qが互いに素ならば(p,q)=1と表すことができます。 今後よく出てくると思うので覚えておいてください!!

エルデスシュトラウスの予想が成立すると仮定すると


\frac{4}{n} = \frac{1}{x} + \frac{1}{y} + \frac{1}{z} = \frac{xy+yz+zx}{xyz}


4xyz = n(xy+yz+zx)

となる必要がありますが実はこれも矛盾となります。なぜなら右辺はnの倍数であるのに対して、左辺は(n,x)=(n,y)=(n,z)=1のせいでnの倍数とはなりえないからです! (nが2であれば話は別ですが今はnが一般的な素数の話をしているので置いておきます)

これは合同式という概念を用いても表現できます。


4xyz ≢ n(xy+yz+zx) (mod n)

合同式とか難しく言っちゃってますが実際この式はある数で両辺を割ったときの余りを比べているだけです(・_・)
言葉にして表せば「左辺と右辺をnで割ったときの余りは等しくない」ということを表現した式になります。
一般的にある数で両辺を割ったときの余りが絶対に等しくならないときは、その等式は矛盾を含んでいるということになるのです。

例えば、x,yを自然数としたとき 方程式 
3x+1 = 3y+2
は絶対に解をもちません。なぜなら、3で両辺を割ったときの余りが絶対に等しくなりえないので方程式に矛盾があるからです。


3x+1 ≢ 3y+2 (mod 3)

話が逸れちゃいましたね汗 以上のことからエルデスシュトラウスの解に2.のような場合は存在しないということになります。

では3.の場合はどうでしょう。 このとき

 x = n^t x'

とおくことができます。このとき、もちろんtおよびx'は自然数であり、(n,x')=(n,y)=(n,z)=1です。

※xがt個のnを因数に持っていたとして(xを素因数分解したときにnがt個現れる)、x'はxから完全にnが取り出されたはずなので(n,x')=1となるはずです!

このときエルデスシュトラウスの予想が成立すると仮定すると

 n^t x'(y+z)+yz = 4n^{t-1} x'yz

(計算自体は簡単なので自分で計算してみてください!代入・通分して分母を払うだけです!)
ここで合同式を使います。nt-1を法とする(nt-1で割ったときの余りを考えるということ)両辺の合同式をとると、

 n^t x'(y+z)
 4n^{t-1}x'yz

の余りは0となるはずなので、

 0 + yz ≡ 0 (mod n^{t-1})
 yz ≡ 0 (mod n^{t-1})

となりますね。ここでtは自然数と考えましたが、例えばt=2としてみます。すると、

 yz ≡ 0 (mod n)

という式になりました。あれれ、でもよく考えてみたらおかしいですよね??
yとzはnとは互いに素であったはずです。でもその積がnを因数に含む(nの倍数になる)というのはおかしいですよね。
もしt=3としてもやはり同様の理由で矛盾が生じます。
tは自然数ですが2以上の自然数では矛盾が生じてしまうのです。ではt=1ならどうでしょう。
n0 = 1なので、

 yz ≡ 0 (mod 1)

これは言葉に直せば「yzは1で割ると余りは0である」ということになります・・・。
これって当たり前ですよね?どんな自然数y,zに対してもt=1では矛盾が生じません。よってt=1であるならば、3.の場合はありえるわけです。
ここで一つ解の表し方を決定できました。

(n,α)=(n,β)=(n,γ)=1(いわばすべてnとは互いに素な3つの数α,β,γ)を用いて次のように書ける解が存在する可能性がある。


(x,y,z)=(nα,β,γ)...(*)

x = nαとなったのはt=1という条件からです。このような解の形式を(*)と呼ぶことにします。
実際、n = 4k+3(kは負でない整数)型の素数のときつぎのような解形式(*)の恒等式が存在します。


\frac{4}{4k+3} = \frac{1}{2(k+1)} + \frac{1}{2(k+1)} + \frac{1}{(4k+3)(k+1)}

ここでいうx,y,zはそれぞれ

x = (4k+3)(k+1)

y = 2(k+1)

z = 2(k+1)
に対応します。

それでは最後に4.の場合を調べてみます。
このとき

 x = n^{t}x',y = n^{s}y'

とおくことができることがわかりますか?
もちろんt,s,x',y'は自然数であり、3.のときと同様に(n,x')=(n,y')=(n,z)=1とすることができます。

※xがt個、yがs個のnを因数に持っていたとして(x,yをそれぞれ素因数分解したときにnがそれぞれt個,s個現れる)、x',y'はそれぞれtおよびs個のnが完全に取り出されたはずなので(n,x')=(n,y')=1となるはずです!

このときエルデスシュトラウスの予想が成立すると仮定すると

 4n^{t+s-1}x'y'z = n^{t+s}x'y'+n^{s}y'z+n^{t}zx'...(式1)

(これも計算自体は簡単です!自分で計算してみてください!)

このときx,yは対称(入れ替え可能)なので、sとtも対称(入れ替え可能)です。
※式の中でxとyを入れ替えても式の内容は入れ替わらないとき、xとyは対称といいます。そしてその式を対称式といいます。割と整数問題では重要な概念なので覚えておいて損はないと思います。そして対称な2つの数には自由に大小関係を決めることができます。
例えば、和が7になる2つの自然数の組み合わせはいくつあるかと聞かれたときに多くの人は以下のような式を立てるでしょう。

 p+q = 7(ただし、p,qは自然数)

この式で(p,q)=(1,6),(2,5),(3,4),(4,3),(5,2),(6,1)となりますが、実際組み合わせは(1,6),(2,5),(3,4)の3つとなります。そうなるのは、p,qが入れ替え可能(すなわち対称)であるからです。このとき大きい方をp,小さい方をqとする、すなわちp>qと自分で決定することが許されているのです。

話を元に戻しましょう。この考え方を用いるとt≥sと定義することができます。このときt-s≥0となり、(t-s)は負でない整数となるので

 n^{t-s}自然数となります。このとき安心して(式1)の両辺はnsで割ることができます。なぜなら、nsで割ると、

 4n^{t-1}x'y'z = n^{t}x'y'+y'z+n^{t-s}zx'...(式2)

という式が得られますが、この等式のすべての項は自然数だからです。
ここでまた合同式を使います。しかし今回はちょっとエキセントリックです。
このときはちゃんとすべての項が自然数であるように合同式の法(どんな数で割ったあまりを考えるのか)を慎重に決定しなくてはなりません。nの累乗の指数が負の数にならなければ自然数なので、以下のような不等式が成立することを考えます。

 t>(t-1)≥(t-s)

この不等式によりnを最も持っていないのは n^{t-s}を含む項であるということが分かり、 n^{t-s}を法とすることでより多くの項を減らせるということがわかります。いろいろな脇道に逸れましたが、合同式の計算を始めてみましょう。

式2の n^{t-s}を法とする( n^{t-s}で割ったときの余りを考える)両辺の合同式をとると、

 4n^{t-1}x'y'z
 4n^{t}x'y'
 4n^{t-s}zx'

の余りは0となるはずなので、

 y'z ≡ 0 (mod n^{t-s})

となります。ここで、3.のときと同様に考えるとt=s以外では矛盾が生じます。t≥sという条件なのでt>sとなるようなt,sで例を考えてみましょう。
例えばt=2,s=1としてみます。すると、

 y'z ≡ 0 (mod n)

という式が導かれます。しかし、(n,y')=(n,z)=1なのでやはりおかしいです。
逆にどんな自然数y',zに対してもt=sでは矛盾が生じません。よってt=sならば、d.の場合はありえます。
ここでもう一つ解の表し方を決定できました。

(n,α)=(n,β)=(n,γ)=1(いわばすべてnとは互いに素な3つの数α,β,γ)を用いて次のように書ける解が存在する可能性がある。


(x,y,z)=(n^{t}α,n^{t}β,γ)...(**)

矛盾しないための条件から、s=tを代入しました。このような解の形式を(**)と呼ぶことにします。
解形式(**)の恒等式はすでに紹介したとおりですね。

いかがでしたでしょうか?エルデスシュトラウスの予想の解はある程度秩序を持って存在しているわけです。
でも今回はα,β,γの関係性には言及しませんでした。
「結局大まかな形式しかわかんなくて役に立たないじゃん!!」なんて意見を受けても仕方ないと思ってます。
というわけで次回はさらに解の形式を分析した結果をお知らせいたします!
もしよろしければ他の記事も見てもらえると幸いです。

~エルデスシュトラウスの予想の部分証明に関する記事のリンクです~

picolinateu.hatenablog.com

picolinateu.hatenablog.com

picolinateu.hatenablog.com

picolinateu.hatenablog.com

picolinateu.hatenablog.com