数をたくさん足すとどうなるだろう2(バーゼル問題)
いきなり前回の続きからです。今回は微分がわからない人はつらいかもしれませんがご容赦ください。
前回は下のような等式を紹介したと思います。
この"バーゼル問題"を証明するにはいくつかの準備が必要です。
まず1つ目の準備は三角関数の"マクローリン展開"をすることです。
「マクローリン展開って何?なんかキモイんですけど」
すみません。でも今からちゃんとわかりやすく説明するので聞いてみてください。
簡単に言えば、
「多項式でない関数を無限級数として無理やり多項式にする」
ということです。
"数学は言葉"なのでまずはわかりやすく言葉で説明しましょうか。
ではまず"多項式"とはまず何だったでしょうか。
そう、多項式とは例えば
などのよく見るの式のことです(じゃなくてとかでもいいけど)。
多項式には定数項、の項、の項、の項...とあるわけです。
逆にこのようにあらわされる式を多項式と呼ぶのです。
では多項式でないものとは例えばどんなものでしょうか?その例としては、
などがあります。確かにこれは多項式とは全く違った表記がされているため多項式とは言えません。
こういった多項式でない関数
などを無理やり多項式に変える方法がマクローリン展開なのです。そしてその無理やりな部分が無限級数としてあらわすこと、すなわちの式の無限回の足し算で表す、ということなのです。
では、その具体的な方法はどうすればよいのでしょうか?それが以下のような数式で説明されます。
「いきなり言われてもわかんないんですケド」
ですよね~(笑)ちゃんと説明するので許してください。
まずは階乗記号でたとえばとなります。
「その数から1ずつ減らして1までかけていく」というわけですね!
また、やは微分記号で前者は1回,後者は2回を微分したことになります。
という操作はまだ習っていない人にも分かるように簡単に説明すると、
という操作です。
これは数学的な定義とはかけ離れた説明ですが、かなりわかりやすい説明だと思います。
本当は「微分」することは「接線の傾き」を求めること、という数学的な意味があるのですが、それは高2の授業で習うと思います!
微分をすでに習っている人は無視して構いません~
を微分するということは、さっきの定義に従うと
ので、
となります。(5は係数としてそのまま)
ではようやくここでマクローリン展開を行ってみようと思いますが、
式で見てもつかみにくいと思うのでとりあえずやってみましょう。
微分を習っていない人もさっきの計算方法をマスターして、一緒に計算してみましょう。
なので、すなわち
なので、すなわち
なので、すなわち
また、4回以上微分すると必ず0になるので、となります。
よってマクローリン展開すると
となります。
「アレ?マクローリン展開したら元に戻ったんですケド。騙された?」
いえいえ、そんなことはないですよ。
多項式でできた関数をマクローリン展開するとそれ自身に戻る性質があります!
では、今度は多項式でない関数をマクローリン展開してみましょう。
と、言いたいところですがの微分法は数Ⅲで学習する内容なので、
ここではの微分はこのようなものなんだよ、と決めてからマクローリン展開することにします。
とすると、
となります。
は面白いことに2回微分すると自身の逆符号に、4回微分すると自分自身に戻る性質があります。
詳しくは数Ⅲで習ってください!
というわけで、
ですので、をマクローリン展開すると、
となります!
先ほどと同様にマクローリン展開の公式に代入するとこうなります。
自分で公式に代入して確かめてみてください!
ここでとりあえず1つ目の準備が整いました。次の準備に取り掛かるとしましょう。
2つ目の準備はを因数分解することです。
あれ?さっきよりは簡単?因数分解でしょ?と思うかもしれません。
確かに多項式の因数分解は数Ⅰや数Ⅱでも学習する基本事項ですが今回は多項式でないの因数分解です。
思うほど簡単ではありませんが、厳密さを求めなければ感覚的には理解はできると思います。
まず多項式の因数分解する際にはどんなことを考えるでしょうか?
2次式なら九九みたいに何も考えずパッとやっちゃう人が多いと思いますが3次以上では因数定理というものを用いていたと思います。
まだ習っていない人も、例題を見て学んでみてください。
二次方程式 に対して因数定理を用いてみましょう。
とすると、でありですよね。
ということは、
ことになります。
よっては次のように因数分解されることになります。
これは中学校でもやる因数分解ですね!
このように解となるの値を利用することで多項式を因数分解することができるのです。
ではお待ちかね、これをの因数分解に応用してみます。
は多項式という条件ですが、のマクローリン展開の式を多項式と見れば因数定理を無理やり使えそうです。
言い換えればのマクローリン展開の式
を因数定理を用いて因数分解できるはずだということです。
ここでに対してとなるを探してみますが、
よく考えるとは方程式の解であるということがわかります。
の解はなので
※高校2年生の分野です。弧度法を理解しないといけないので説明は難しいですが、
ここではそういうものだと考えてみます。
すなわち、ということになります。
因数定理によれば
はを因数に持つことになります。ここでちょっとまとめましょう。
頭がこんがらがった場合には因数定理がどういうものだったか、ページを上に戻ってみるのもいいかもしれません。
ではを因数にもつので、
と因数分解できるはずですね。(Aは定数)
さて、ここでちょっとズルみたいな反則級の技を使います(笑)
定数は不明な値なのですがこれを消すために次のような変形をします。
この式変形はかっこの中の式をで割っていくと得られ、代わりに定数が消えます。
これはが
という性質を持っていたから、ということに他なりません 。
(よくわからない人はを再度の式に代入してみてください。約分するとそうなります!)
また、この式変形はを代入したら0になるという性質を保ったままの変形ですね!
さらに、中学で習うより隣り合うかっこ同士を展開すると
と変形できます。
これがの因数分解となるのです。
また、右辺を確認するとこの式は無限回の掛け算であることがわかります。
これは無限回の足し算"無限級数"に対して"無限乗積"と呼ばれています。
この概念は無限級数の掛け算バージョンと考えれば割と簡単に理解できるでしょう。
これでやっとやっと準備が整いました!
本当に長かったですね…丁寧に説明するとこんなに長くなるとは…
いよいよバーゼル問題の解決に踏み出しましょう!!
まず、のマクローリン展開で得られた多項式と因数分解で得られた式はお互いに
であることがわかります。
恒等式とは、お互いに"次数" "すべての項の係数"がどちらも等しい多項式同士のことをいいます。
これは結局全く同じ式同士のことを言っているのですよね!
例えば、と恒等式の関係にあるものはしかありません。当たり前ですよね(笑)
もちろんとは恒等式同士です。
ということはマクローリン展開したも因数分解したもどちらも同じであることには変わりないのですから、
この二つは恒等式であるといえるのです。
ではここで因数分解したのの係数について考えてみましょうか。
でしたから、展開するときにその項がになるためには、
という必要があります。
これは展開するときに2つ以上右の項から選んでしまうとの次数が5以上になってしまうからで、
1つしか選ばないとかっこの外にあると合わせての次数がちょうど3になるからだとわかるでしょう。
ではこれを踏まえての係数を考えると、
をくくりだして、
となるので、の係数は
という無限の足し算で表されることになります!
あともうちょっと!!
ところでマクローリン展開したのの係数はどうだったでしょう?
のマクローリン展開は
だったから…
そう、です!
勘のいい人ならもう気が付いたかもしれません。
因数分解したとマクローリン展開したは恒等式でした。
恒等式はすべての項の係数が等しいわけで、この両者のの係数を比べると…
両辺にをかけて、
いやー、どうでしたか?
長かったですね…
この問題の肝としてはを因数分解するという
天才数学者オイラーの独創的な発想を用いて解くというところでしょうか。
余談ですがこのバーゼル問題はベルヌーイ一家が解こうとして失敗し、そのあとオイラーによって解かれたのですが、
実はそのベルヌーイ一家の故郷がバーゼルであったのと、さらにオイラーの故郷もバーゼルだった、
というところからこの名前が付けられたらしいです。
結構分かりにくい部分もあったと思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました!!!