中高生にも分かる数学

他のサイトでよくある「数式で一般化した美しい数学」より「例題から理解してもらう親しみやすい数学」を目指しています。

円周率を自分で計算してみよう

【対象年次:中学一年~】

みなさん「円周率を計算して」と言われたらどうしますか?
円周率はπ=3.14…ということはお馴染みですが、意外と計算してと言われると「うーん」と悩んでしまう人もいるのではないでしょうか。
実際に東京大学の入試試験で
 円周率が3.05よりも大きいことを証明せよ
という問題が出題されました。
「…え、円周率は3.14だから大きいことは分かるけど、証明…?」「そもそも何をしたらいいかわからん…」
と思ってしまうかもしれませんが、そんなアナタのために今回は円周率の様々な計算方法を紹介していきたいと思います!

関数電卓で(正n角形の外接円)

ここではAndroidiPhoneスマホ電卓アプリで円周率 πを計算する方法を教えます!
まず、電卓アプリを開きます。
そして画面を回転させて普通電卓モードから関数電卓モードに切り替えます。
(たぶん画面回転で \sqrt{}や、 sin logなどが出てくると思います)
そして、以下のような式を入力します。

 □×sin(180÷□)

 sinは三角比といって高校一年で学びます。
後で軽く説明しますが、まだ履修していない方はとりあえず
 sin=\frac{(直角三角形の高さ)}{(直角三角形の斜辺の長さ)}
で計算できると思っておいてください!

ここで □には9を好きなだけ入れてもらうのですが、必ずどちらの □にも同じ数だけ9を入れてください。
例えば1こだけ9を入れてみた場合は、

 9×sin(180÷9)=3.0781812897...

となります。これが何?ともう人は一つずつ9の個数を増やしてみてください。6こも入れてみれば、なんと

 999999×sin(180÷999999)=3.1415926536...

もうほとんど円周率ですね!
この □に入れる数が大きいほどこの値は πに近づいていくようです。
(ちなみに □に入力する数は大きければなんでもよくて、9999…である必要はありません)


ではなぜこの式で円周率が計算できるのかを説明します!
それは、

 正多角形(正n角形)は角数が多くなる(nが大きくなる)と形が円に近づく

という性質があるからです。
実際に正多角形を書いてみると分かりやすいですが、

正3角形より正6角形が、正6角形より正12角形の方がより丸い形であることが分かりますよね。

f:id:exponential0805:20220211035001p:plain

そして、これをさらに詳しく言い換えると
 正n角形の外周はnが大きくなるほど、円周の長さに近づいていく
ということが言えます。

f:id:exponential0805:20220211035849p:plain

これは正12角形ですが、これを例に考えていきましょう!
正12角形の一辺の長さを a、それに外接する円(正12角形の全ての頂点を通る円です)の半径を rとします。
このとき赤い印が付いている部分の角度は360°を12等分しているので \frac{360°}{12}となります。

では、正12角形内部の「三角形の一つ」を取り出してみましょう。

f:id:exponential0805:20220211225902p:plain

ここで正12角形の中心を点O、その他の三角形の頂点をそれぞれ点A,点Bとします。
さらに点Oから線分ABへ垂直な補助線を引いて、それと線分ABの交点を点Hとします。

このとき、三角比を使ってarの関係式を導き出してみます!
まず、∠AOH∠AOBのちょうど半分なので
(正多角形の性質のおかげでこうなりますが、今回は厳密な証明を目的としているわけではないので割愛させていただきます)

∠AOH=\frac{1}{2}×∠AOB
∠AOH=\frac{1}{2}×\frac{360°}{12}
∠AOH=\frac{180°}{12}

となることが分かりますね!
ではここで三角比sinを使います。先ほども軽ーく説明しましたが、
 sin\frac{(直角三角形の高さ)}{(直角三角形の斜辺の長さ)}
で計算することができます。
上の図で考えると、「斜辺」にあたる部分は線分OA,「高さ」にあたる部分は線分AHですね。

…さあ、ここで「どこが『高さ』かなんて見る方向によって変わるやん」と思ったそこのアナタ!
素晴らしいです!!
全くその通りで sinなどの三角比を考えるときにはまず「直角三角形」の配置に着目することが非常に大事です。
具体的には必ず直角(∠AHO=90°)を右下、着目する角度(∠AOH)を左下に配置します。こうすることで間違いを大幅に減らせます!
では実際に数を当てはめてsinを計算してきましょう。

 sin(着目する角度)=\frac{(直角三角形の高さ)}{(直角三角形の斜辺の長さ)}
 sin∠AOH=\frac{(線分AH)}{(線分OA)}

∠AOH=\frac{180°}{12},線分OA=r,線分AH=\frac{線分AB}{2}=\frac{a}{2}なので、

 sin\frac{180°}{12}=\frac{\frac{a}{2}}{r}=\frac{a}{2r}

両辺に2rをかけて、

 a=2rsin\frac{180°}{12}

という式が出てきました。とりあえずこれはここまでで完成。
後で使うので覚えておいてくださいね!

そしてここでもう一度重要なことを思い出してください。

 正多角形(正n角形)は角数が多くなる(nが大きくなる)と形が円に近づく
↓
 正n角形の外周はnが大きくなるほど、円周の長さに近づいていく

そしてこの言葉による説明を数式化してみます。
まず正n角形はその一辺をaとすると辺の数はn個あるので、その外周の長さはnaと表されることは分かりますでしょうか?
そして円周の長さ。これは2×(円周率)×(半径)なので、外接円の半径をrとすれば、2πrとなります。

そして最も重要なのは、nが大きくなるほど「外周が円周に近づいていく」ということです。
これはnがある程度大きければ、

na≒2πr

と近似できることを示しているのです!
さあ、だいぶ答えに近づいてきましたね…!

ではここで先ほど導いたa,rの関係式(赤文字で書かれた式です)をこの近似式に代入してみましょう。
(ちなみにここでは例として正12角形を使っているのでn=12も代入しておきましょう!)
すると…

na≒2πr
12×2rsin\frac{180°}{12}≒2πr

両辺を2rで割ると、

π≒12sin\frac{180°}{12}

という関係式が得られました!!!
ただし、これはn=12のときの円周率の近似値で、精度はあまりよろしくありませんが…
(12sin\frac{180°}{12}=3.1058…)

これを正n角形で一般化すると、12の部分をnで置き換えればいいので、

π≒n×sin\frac{180°}{n}(ただしnが十分に大きいとき)

という、最初に電卓で計算した式が現れましたね!
例えば 999999×sin(180÷999999)は正999999角形の外周の長さで近似した円周率ということになるわけです!

ちなみに sinの代わりに tanを使っても同じように計算できます。
興味のある人は試してみると面白いかもしれません!

分数の足し算引き算で(ライプニッツの公式)

今度はもっと身近な数式を使って円周率を計算してみましょう。
このライプニッツの公式を使えば簡単な分数の足し算引き算で円周率の近似値を計算することができます!

 ライプニッツの公式
 π = 4×(1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\frac{1}{13}+…)

どうでしょう。
かなりめんどくさいとは言え、自分の手で計算できるレベルの数式ですね!

ではこの公式はどれくらいの精度で円周率を計算することができるのでしょうか?
ここでは僕がExcelを使って何回か計算してみました。

 第50項までの計算
 4×(1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+…-\frac{1}{99})=3.121594…

小数点第一位までは正しいですね。でもまだまだ…

 第100項までの計算
 4×(1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+…-\frac{1}{199})=3.131592…

まだ小数点一位は正しくないですが、さっきよりは近づいてます!

 第1000項までの計算
 4×(1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+…-\frac{1}{1999})=3.140592…

一気に飛んで1000まで行きました。
ここまでくると小数点第二位まで精度が上がりました!

しかし、裏を返せばこの公式では1000回足し引きしないとこの精度にならないということです。
ライプニッツの公式はかなり精度が低い公式だと言えますね…!

ちなみにもっと精度の高いマチンの公式

 π = (\frac{16}{5}-\frac{4}{239})-\frac{1}{3}(\frac{16}{5^{3}}-\frac{4}{239^{3}})+\frac{1}{5}(\frac{16}{5^{5}}-\frac{4}{239^{5}})-…

は最初の3回計算するだけで値が 3.141621…と圧倒的に円周率に近づくのが早いです!
まあ、その分複雑ではあるんですけどね…( ;∀;)

分数の掛け算で(ウォリス積)

最後は分数の掛け算で円周率の近似値を計算する方法をお教えします! この公式は「ウォリス積」と呼ばれ、全ての自然数を使った掛け算のみで円周率を表すことができる奇妙な数式です。

 π=2×\frac{2}{1}×\frac{2}{3}×\frac{4}{3}×\frac{4}{5}×\frac{6}{5}×\frac{6}{7}×\frac{8}{7}×\frac{8}{9}…

という感じで、分子には必ず偶数、分母には必ず奇数が現れる分数の無限回の掛け算です。
なんかシンプルでどこか惹かれる公式ですよね…!
今回もどれくらいの精度で円周率を計算することができるのか、Excelを使って計算してみたのでご覧ください。

 2×\frac{2}{1}×\frac{2}{3}×\frac{4}{3}×…\frac{200}{199}×\frac{200}{201}=3.133787…

 2×\frac{2}{1}×\frac{2}{3}×\frac{4}{3}×…\frac{1000}{999}×\frac{1000}{1001}=3.140023…

 2×\frac{2}{1}×\frac{2}{3}×\frac{4}{3}×…\frac{2000}{1999}×\frac{2000}{2001}=3.140807…

という感じで掛け算をたくさん繰り返すほど、円周率に近づいていることが分かるかと思います!
精度としてはライプニッツの公式とどっこいどっこいと言ったところですかね~

さて、いかがでしたでしょうか?
円周率の計算方法を色々知ることによって、多少円周率に親近感が沸いたんじゃないかと思います!

他にもここでは紹介しきれないくらいたくさんの「円周率を求める方法」があります。
それだけ人類は「円周率」に強い関心があったんですね。
この記事を読んで少しでも円周率を自分で計算する方法について興味を持っていただけたらと思います。

「中高生にも分かる数学」では数学が苦手な人にも非常に分かりやすい記事を心がけています。
他にもいくつか記事があるので、ご覧いただけると嬉しいです!
では、また他の記事でお会いしましょう!