中高生にも分かる数学

他のサイトでよくある「数式で一般化した美しい数学」より「例題から理解してもらう親しみやすい数学」を目指しています。

無限降下法【例題から解説!!】|フェルマーの早とちり

【対象年次:中学一年~】

みなさんこんにちは!
中高生にも分かる数学のお時間です。

突然ですが、みなさん「背理法」ってご存知ですか?
背理法は中学校で習う基本的かつ最も重要な証明方法の一つです!
まだ習っていなかったり、よく分からない人のために分かりやすく説明すると、

背理法とは
「ある命題を間違っていると仮定し、その矛盾を証明することで、もとの命題を間接的に正しいと証明する方法」

と言うことができます。
そして今回はその背理法に似た「無限降下法」という証明法を紹介したいと思います。
この無限降下法は自然数を扱う命題を証明するのに役立ちます!
例を挙げて無限降下法について説明しましょう。

 方程式
 x^{2}+y^{2}=3z^{2}に自然数の解は存在するだろうか?

うーん、存在するのかしないのかよくわからない…
そんなとき武器となるのが"無限降下法"です。

まず、最初にするべきことは背理法と同じように"仮定"です。

 方程式を満たす自然数の組(x,y,z)は存在する

と仮定するのです。
これを基準に考えていきましょう。

  x^{2}+y^{2}=3z^{2}
の右辺は3の倍数なのでもちろん左辺も3の倍数でなくてはいけません。
では、 x^{2},y^{2}がどのような数ならば左辺は3の倍数になるでしょうか?
ここで次のような場合が考えられます。

パターン1. (x,y)がともに3の倍数

パターン2. (x,y)がともに3の倍数ではない

という2つのパターンですね。
あれ?片方が3の倍数で,もう片方が3の倍数ではない場合はやんなくていいの?
と考えたアナタ!
僕は嬉しいですよ。そこに気づいてくれて。
しかし、それは考える必要がありません。
なぜなら、xが3の倍数、yが3の倍数ではないとき
x^{2}は3の倍数、y^{2}は3の倍数ではないので、
x^{2}+y^{2}=(3の倍数)+(3の倍数でない)=(3の倍数ではない)
となり、左辺は3の倍数ではなくなるからです!
逆にyが3の倍数であるときもxは3の倍数ではないので、
同様にx^{2}+y^{2}は3の倍数ではなくなりますね。

さて、さっそくパターン2から考えていきましょう。
3の倍数でない数というのは
(3で割って1余る数),(3で割って2余る数)
の2種類があります。
よって、パターン2にはさらに以下の3パターンに分類されるのです。

パターン2A. x,yがともに3で割って1余る数
パターン2B. x,yがともに3で割って2余る数
パターン2C. xが3で割って1余る数、yが3で割って2余る数

ここで
xが3で割って2余る数、yが3で割って1余る数
の場合は考えなくていいの?という質問が出るかもしれませんが、
これは結局
xが3で割って1余る数、yが3で割って2余る数
と同じ意味になるので考える必要はありません。
これはもとの方程式がx,yを入れ替えても式の意味が変わらない「対称式」だからです。
よく分からない人は自分で代入して確かめてみると理解できるかもしれませんね!

というわけで、各パターンについてx^{2}+y^{2}が3の倍数になるかどうかを確かめていきましょう。

パターン2Aは
x=3a+1,y=3b+1(a,bは自然数)とおくことができるので
x^{2}+y^{2}=(3a+1)^{2}+(3b+1)^{2}=3(3a^{2}+2a+3b^{2}+2b)+2
となり、x^{2}+y^{2}は3で割って2余る数、すなわち3の倍数ではありません。
(計算は省略してあるので、自分で計算してみてください!)

パターン2Bは
x=3a+2,y=3b+2(a,bは自然数)とおくことができるので
x^{2}+y^{2}=(3a+2)^{2}+(3b+2)^{2}=3(3a^{2}+4a+3b^{2}+4b+2)+2
となり、x^{2}+y^{2}は3で割って2余る数、すなわち3の倍数ではありません。

パターン2Cは
x=3a+1,y=3b+2(a,bは自然数)とおくことができるので
x^{2}+y^{2}=(3a+1)^{2}+(3b+1)^{2}=3(3a^{2}+2a+3b^{2}+4b+1)+2
となり、x^{2}+y^{2}は3で割って2余る数、すなわち3の倍数ではありません。

というわけでパターン2はx^{2}+y^{2}が3の倍数になる場合がない、すなわち
  x^{2}+y^{2}=3z^{2}
が成立することはない、ということになりました!全滅ですね。


ちなみに、この3パターンを計算してみると必ず
x^{2}+y^{2}=(3で割って1余る数)+(3で割って1余る数)=(3で割って2余る数)
となっていることに気づきましたか?
気づいていたら素晴らしいです!
これは「平方剰余」といって"2乗した数は3で割った余りが1にしかならない"という性質からくるものです。
いくつかの自然数を2乗して3で割って確かめてみてもいいかもしれませんね!
文字を使って簡単に証明できますが、本筋とあまり関係ないのでここでは省かせていただきます!


なにはともあれ、あとはパターン1しかないわけです。

パターン1はx,yがともに3の倍数であるというのですから、
x=3x_1,y=3y_1(x_1,y_1は自然数)
と表せますよね。
実際に代入すると
 x^{2}+y^{2}=3z^{2}
 (3x_1)^{2}+(3y_1)^{2}=3z^{2}
 9x_1^{2}+9y_1^{2}=3z^{2}
両辺を3で割って、
 3(x_1^{2}+y_1^{2})=z^{2}
となりますが、今度は左辺が3の倍数になりました。
ということは右辺も3の倍数でなくてはならないので…
zも3の倍数でなくてはいけませんね!

z=3z_1(z_1は自然数)とおいてみると、
 3(x_1^{2}+y_1^{2})=z^{2}
 3(x_1^{2}+y_1^{2})=(3z_1)^{2}
 3(x_1^{2}+y_1^{2})=9z_1^{2}
両辺を3で割って、
 x_1^{2}+y_1^{2}=3z_1^{2}

あ!と気づく人もいるかもしれませんね!
なんと、この式は元の式の形と同じになっていることが分かります。

 x^{2}+y^{2}=3z^{2}

 x_1^{2}+y_1^{2}=3z_1^{2}

式の形は同じで文字だけが入れ替わっているという感じです。
そしてこの(x,y,z)(x_1,y_1,z_1)の関係は

x=3x_1,y=3y_1,z=3z_1

なのでした。
これを見ると、(x_1,y_1,z_1)のどれも元の(x,y,z)より小さくなっていることが分かります。
(すべて3分の1ですね)
そしてもちろん(x_1,y_1,z_1)も方程式 x^{2}+y^{2}=3z^{2}の解となっているわけです。

これに味をしめて
x_1=3x_2,y_1=3y_2,z_1=3z_2
としてもう一度同じことを繰り返すと、もちろん

 x_1^{2}+y_1^{2}=3z_1^{2}

 x_2^{2}+y_2^{2}=3z_2^{2}

という式が生まれてくるわけです。
言わずもがな、(x_2,y_2,z_2)も方程式 x^{2}+y^{2}=3z^{2}の解となっているわけです。
これが無限降下法のミソとなる部分です。

最初に方程式
 x^{2}+y^{2}=3z^{2}
自然数の解 (x,y,z)が存在するということを仮定することで、
それより小さな自然数の解 (x_1,y_1,z_1)が生まれ、
それによりさらに小さな自然数の解 (x_2,y_2,z_2)が生まれ、
それよりさらに…とどんどん小さな自然数の解が生まれていくわけです。
分かりやすく式で書くと、

 x^{2}+y^{2}=3z^{2}

 x_1^{2}+y_1^{2}=3z_1^{2}

 x_2^{2}+y_2^{2}=3z_2^{2}

…

となるにつれて、

(x,y,z)

(x_1,y_1,z_1)

(x_2,y_2,z_2)

…

とどんどん小さな解が生まれるんですね。

方程式 x^{2}+y^{2}=3z^{2}自然数の解(x,y,z)が存在する
↓(ならば)
無限にそれより小さな解(x_n,y_n,z_n)が作れる

ということになりますが、ここであることを考えると矛盾があることに気づきます。
それは自然数下限が1であるということです。

ある自然数の解(x,y,z)をスタートとしてそれより無限に小さな解を作った場合、
最終的には解が1未満になってしまうはずです。
これはおかしい。自然数は必ず1以上でなくてはなりません。
ここに矛盾があるので、背理法でもおなじみ、仮定が間違っていることが疑われるわけです!

自然数の解が存在すると仮定

無限に小さな解が作れる

最終的に自然数じゃなくなるじゃん(矛盾)

方程式
x^{2}+y^{2}=3z^{2}
自然数の解が存在すると仮定すると矛盾が生じるので、
自然数の解は存在しない。
という結論が導かれるのです!

このように、自然数の大きさがどんどん無限に降下していくという矛盾から
無限降下法
と名づけられたのです。

さて、そんな無限降下法ですがみなさんも知っているとっても有名なあの数学者が考案したといわれています。
そう、あのフェルマーの最終定理でおなじみのフェルマーさんです。
彼は相当意地悪な性格だったらしく、まだ未発見の方法で解いた問題を数学者に送り付けて
数学者たちが四苦八苦する姿を楽しんでいたという話もありますw

フェルマーはこの無限降下法を考案して「私の方法」と呼び様々な命題を解きましたが、
問題は彼の死に際に起こりました。
彼は最後の力を振り絞り、

x^{n}+y^{n}=z^{n}となる自然数x,y,zはnが3以上の自然数のとき存在しない

ということを証明できたが、余白が少なすぎてここには証明が書けないといい、亡くなりました。

この命題こそかの有名な「フェルマーの最終定理」でしたが、 フェルマーは本当にこの定理を自分で証明できていたのでしょうか?

現在の見解ではそれは「NO」ということになっています。
それはフェルマーの最終定理が"楕円関数理論"、"モジュラー形式"、"フライ曲線"など
当時存在しなかった概念を用いてやっと証明されたからであり、
彼が愛用していた「無限降下法」を用いて簡単に証明できるような代物ではなかったからです。

現在ではフェルマーの最終定理は彼が無限降下法を用いて証明できると勘違いして提唱された定理ということで決着がついています。
なんだか悲しいですね…('_')

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ピエール・ド・フェルマー(wikipediaより)

今回はフェルマーと絡めて「無限降下法」という証明法について紹介させていただきました。
最後までご覧いただきありがとうございました!!

「中高生にも分かる数学」では数学が苦手な人にも非常に分かりやすい記事を心がけています。
他にもいくつか記事があるので、ご覧いただけると嬉しいです!
では、また他の記事でお会いしましょう!